凌宮読取術:$$ \Big(\! \ppd{x}{y} \!\Big)_z \Big(\! \ppd{y}{z} \!\Big)_x \Big(\! \ppd{z}{x} \!\Big)_y = -1 $$ EditToHeaderToFooter

任意の2変数関数$$ z $$$$ = $$$$ f(x, y) $$について、オイラーの連鎖式と呼ばれる恒等式が成立する*1

オイラーの連鎖式: $$ \Big(\! \ppd{x}{y} \!\Big)_z $$$$ \Big(\! \ppd{y}{z} \!\Big)_x $$$$ \Big(\! \ppd{z}{x} \!\Big)_y $$$$ = $$$$ \iro[ak]-1 $$

問題は、$$ \partial x $$などを約分して$$ +1 $$にしたどころで、そんな期待を裏切る$$ \iro[ak]-1 $$である。
一般的な証明*2*3は式を弄り回したら合ったレベルで、とても直感的とは言えない。

しかし、それだけで「偏微分は約分できない」と諦めるのは、まだ早計である。
$$ dx $$が約分できる結果だけ見て、$$ \partial x $$を約分するから上手く行かない。
$$ dx $$が約分できる原因を考えば、$$ \partial x $$を符号込みで約分できるようになる。

凌宮数学では、オイラーの連鎖式は以下のように読み替える:

$$ \Big(\! \ppd{x}{y} \!\Big)_z $$$$ \Big(\! \ppd{y}{z} \!\Big)_x $$$$ \Big(\! \ppd{z}{x} \!\Big)_y $$$$ = $$$$ \Big(\! \iro[ak]- \ffd{K_y}{K_x} \!\Big) $$$$ \Big(\! \iro[ak]- \ffd{K_z}{K_y} \!\Big) $$$$ \Big(\! \iro[ak]- \ffd{K_x}{K_z} \!\Big) $$$$ = $$$$ \iro[ak]-1 $$

ここで、$$ K_? $$は全て係数であり、約分も符号も小学校同様に扱って良い。

*1 熱力学や熱化学の分野では圧力$$ P $$、体積$$ V $$、温度$$ T $$を結ぶマクスウェルの規則$$ \Big(\! \ppd{P}{V} \!\Big)_T $$$$ \Big(\! \ppd{V}{T} \!\Big)_P $$$$ \Big(\! \ppd{T}{P} \!\Big)_V $$$$ = $$$$ -1 $$の形で学ぶことになる。
*2 参考:熱学の基礎/微分公式/偏微分
*3 参考:EMANの物理学/熱力学/状態方程式の微分形

基礎知識 EditToHeaderToFooter

オイラーの連鎖式の符号は、「$$ \iro[ak]- $$」を直感的に捉えられれば、ことが済む。
その原因を探ると、陽関数と陰関数に辿り着く。
このため、凌宮数学では、陽微分と陰微分の概念を作り出し、微分の符号を直感的に扱う。

陽関数と陰関数 EditToHeaderToFooter

一般に、3つの変数$$ x $$$$ y $$$$ z $$の関係を記述するには、以下の2つの書き方が可能である。

  • 陽関数: $$ z $$$$ = $$$$ f(x, y) $$
  • 陰関数: $$ 0 $$$$ = $$$$ F(x, y, z) $$

陽関数では、変数を独立変数と呼ばれる既知の変数と従属変数と呼ばれる未知の変数に分け、
変数間にある関係の他に、独立変数から従属変数を求める手段も同時に与える。
表記としては、独立変数は$$ (x,y) $$のように括弧で括り、従属変数は$$ z $$は関数値と等号で結ぶ。

陰関数では、全ての変数を平等に扱い、それらの間にある関係を与える。
表記としては、変数は全て括弧で括り、関数値は定数と等号で結ぶ。
変数を求めるには、具体的に陽関数の形に変形する必要があるため、陽関数より抽象度が高い。

任意の2変数の陽関数$$ z $$$$ = $$$$ f(x, y) $$に対し、
$$ F(x) $$$$ = $$$$ f(x, y) $$$$ \iro[ak]- $$$$ z $$と独立変数を移項することで等価の陰関数を簡単に作り出せる。
結論から言うと、この移項で発生する「$$ \iro[ak]- $$」がオイラーの連鎖式に現れる「$$ \iro[ak]- $$」に繋がる。

微分係数としての微分 EditToHeaderToFooter

微分の捉え方の一つに、微分係数という考え方がある。
それは、関数の1次近似を考える際、得られる1次式の係数を微分と定義する方法である。

 被近似関数1次近似微分係数
記号関数の微分独立変数の微分
1変数関数$$ z $$$$ = $$$$ f(x) $$$$ z $$$$ = $$$$ k_0 $$$$ + $$$$ k_x $$$$ x $$$$ k_x $$$$ \ddd{f}{x} $$$$ \ddd{z}{x} $$
2変数関数$$ z $$$$ = $$$$ f(x, y) $$$$ z $$$$ = $$$$ k_0 $$$$ + $$$$ k_x $$$$ x $$$$ + $$$$ k_y $$$$ y $$$$ k_x $$$$ \ppd{f}{x} $$$$ \ppd{z}{x} $$
$$ k_y $$$$ \ppd{f}{y} $$$$ \ppd{z}{y} $$

1変数関数と2変数関数で微分記号が$$ d $$$$ \partial $$で異なるのは歴史的理由で、本質ではない。微分係数という考え方は、偏微分と相性が良く、1変数は多変数の特殊例として全て$$ \partial $$に統一しても問題ない*4

ポイント2:関数$$ f $$の関数値と従属変数$$ z $$は同値関係ではあるが、等価ではない。関数$$ f $$には出力となる関数値の他に、入力となる独立変数の情報も持つが、従属変数$$ z $$には値しかない。

例えば、陽関数$$ z $$$$ = $$$$ f(x, y) $$の例では、$$ \Big( \ppd{z}{x} \Big)_y $$$$ \Big( \ppd{x}{z} \Big)_y $$陽微分になる。
一方で、陰関数$$ 0 $$$$ = $$$$ f(x, y) $$の例では、$$ \Big( \ppd{x}{y} \Big)_z $$$$ \Big( \ppd{y}{x} \Big)_z $$陰微分になる。
ただし、陽関数でも、$$ \Big( \ppd{x}{y} \Big)_z $$$$ f $$陰関数扱い*5にした陰微分になる。
対して、陰関数には独立変数が存在しないため、陰関数陽微分は存在しない。

2変数関数$$ f(x, y) $$は一般的に$$ f(x, y) $$$$ = $$$$ a $$$$ x $$$$ + $$$$ b $$$$ y $$$$ + $$$$ k $$で一次近似できる。
ここで、$$ a $$$$ b $$はそれぞれ$$ x $$$$ y $$に対応する係数で、$$ k $$は定数項である。
そして、$$ a $$$$ \Big( \ppd{f}{x} \Big)_y $$$$ b $$$$ \Big( \ppd{f}{y} \Big)_x $$と書くのが微分係数としての微分である。

陽関数の文脈では、$$ z $$$$ = $$$$ f(x, y) $$の一次近似が$$ z $$$$ = $$$$ a $$$$ x $$$$ + $$$$ b $$$$ y $$$$ + $$$$ k $$になり、
微分係数を$$ a $$$$ = $$$$ \Big( \ppd{f}{x} \Big)_y $$$$ = $$$$ \Big( \ppd{z}{x} \Big)_y $$のように関数値の代わりに従属変数で書くことができる。
このため、陽微分は微分係数ということになる。

一方で、陰微分$$ z $$$$ = $$$$ a $$$$ x $$$$ + $$$$ b $$$$ y $$$$ + $$$$ k $$を変形して求める必要がある。
例えば、$$ \Big( \ppd{x}{y} \Big)_z $$$$ x $$$$ = $$$$ \ffd{z}{a} \iro[ak]- \ffd{b}{a}y \iro[ak]- \ffd{k}{a} $$にしてから、$$ y $$の係数を取って$$ \Big( \ppd{x}{y} \Big)_z $$$$ = $$$$ \iro[ak]- \ffd{b}{a} $$と求まる。
このように、陰微分は2つの微分係数の割り算に「$$ \iro[ak]- $$」が付いた値になる。

重要なので、強調しながら纏めると、
陽微分高校からならう微分係数そのもので、いわゆる通常の微分である。
陰微分大学で黙って登場するが、通常の微分と違って、係数で書くと$$ \iro[ak]- $$」が付く性質を持つ*6

*4 逆に全て$$ d $$に統一するのは、同じく歴史的理由により簡単には行かない。
*5 偏微分の定義から$$ z $$を定数と見なすため、陽関数$$ z $$$$ = $$$$ f(x, y) $$でも陰関数$$ 0 $$$$ = $$$$ f(x, y) $$と同じになる。
*6 この「$$ \iro[ak]- $$」の付く・付かない性質が、陰微分・陽微分と名付けた本来の理由である。

陰関数のオイラーの連鎖式 EditToHeaderToFooter

オイラーの連鎖式$$ \Big(\! \ppd{x}{y} \!\Big)_z $$$$ \Big(\! \ppd{y}{z} \!\Big)_x $$$$ \Big(\! \ppd{z}{x} \!\Big)_y $$$$ = $$$$ -1 $$自体は陽関数でも陰関数でも成り立つ。
そこで、陰関数では全ての変数を平等に扱うため、対称性の良いオイラーの連鎖式を考えるには都合が良い。
このため、まず本節で陰関数のオイラーの連鎖式を説明してから、次節で参考として陽関数のオイラーの連鎖式を説明する。

オイラーの連鎖式は3つの変数に関する公式であるため、陰関数で考える場合は3変数関数で考える必要がある:

式1: $$ 0 $$$$ = $$$$ F(x, y, z) $$

この時点で、オイラーの連鎖式に登場する3つの微分が全て陰微分で、掛け合わせると
  ・ 符号が「$$ \iro[ak]- $$」が3つで「$$ \iro[ak]- $$」に、
  ・ 大きさが分母・分子で打ち合わせて1に、
と合わせて$$ \iro[ak]- 1 $$なるのが容易に予想できる。

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具体的にオイラーの連鎖式を1次近似の係数で読み替えると以下のようになる。

まず、式1を1次近似すると:

$$ 0 $$$$ = $$$$ a $$$$ x $$$$ + $$$$ b $$$$ y $$$$ + $$$$ c $$$$ z $$$$ + $$$$ k $$

次に、真面目に計算しても良いが、以下のように対応する係数を逆さに書いて、「$$ \iro[ak]- $$」を付ければ完成:

$$ \ffd{x}{y} $$$$ \Rightarrow $$$$ \ffd{a}{b} $$$$ \clap{\nearrow}{\searrow} $$$$ \ffd{b}{a} $$$$ \Rightarrow $$$$ \iro[ak]- \ffd{b}{a} $$

このように作るオイラーの連鎖式に現われる3つの微分を表に纏めると:

微分種類
$$ \Big( \ppd{x}{y} \Big)_z $$陰関数$$ \iro[ak]- $$$$ \ffd{b}{a} $$
$$ \Big( \ppd{y}{z} \Big)_x $$$$ \iro[ak]- $$$$ \ffd{c}{b} $$
$$ \Big( \ppd{z}{x} \Big)_y $$$$ \iro[ak]- $$$$ \ffd{a}{c} $$

したがって、陰関数のオイラーの連鎖式は以下のように読み替えできる:

$$ \Big(\! \ppd{x}{y} \!\Big)_z $$$$ \Big(\! \ppd{y}{z} \!\Big)_x $$$$ \Big(\! \ppd{z}{x} \!\Big)_y $$$$ = $$$$ \Big(\! \iro[ak]- \ffd{b}{a} \!\Big) $$$$ \Big(\! \iro[ak]- \ffd{c}{b} \!\Big) $$$$ \Big(\! \iro[ak]- \ffd{a}{c} \!\Big) $$$$ = $$$$ \iro[ak]- 1 $$

陽関数のオイラーの連鎖式(参考) EditToHeaderToFooter

陰関数で考えた方が例外が少なくて楽だが、
物理学や工学で扱う方程式*7の多くが陽関数になるため、参考として陽関数での読み方を説明する。

オイラーの連鎖式は3つの変数についての公式であるが、陽関数で考える場合は1つを従属変数にするため、2変数関数で済む:

式2: $$ z $$$$ = $$$$ f(x, y) $$

この時点で、オイラーの連鎖式に登場する3つの微分の内、$$ z $$を含む2つが陽微分で、残り1つが陰微分であるのが分かる。
したがって、これらを掛け合わせると
  ・ 符号が「$$ \iro[ak]- $$」が1つで「$$ \iro[ak]- $$」に、
  ・ 大きさが分母・分子で打ち合わせて1に、
$$ \iro[ak]- 1 $$なるのが容易に予想できる。

*7 例: 理想気体の状態方程式$$ PV = nRT $$ …… マクスウェルの規則$$ \Big(\! \ppd{P}{V} \!\Big)_T $$$$ \Big(\! \ppd{V}{T} \!\Big)_P $$$$ \Big(\! \ppd{T}{P} \!\Big)_V $$$$ = $$$$ -1 $$

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具体的にオイラーの連鎖式を1次近似の係数で読み替えると以下のようになる。

まず、式3を1次近似すると:

$$ z $$$$ = $$$$ a $$$$ x $$$$ + $$$$ b $$$$ y $$$$ + $$$$ k $$

次は計算になるが、陽関数のため3パターンに増える:

  • $$ \Big( \ppd{x}{y} \Big)_z $$: これは陰微分のため、前節同様$$ \iro[ak]- $$$$ \ffd{b}{a} $$になる。
  • $$ \Big( \ppd{y}{z} \Big)_x $$: これは陽微分だが、従属変数$$ z $$が下に居るため、微分係数の逆数$$ \ffd{1}{b} $$になる。
  • $$ \Big( \ppd{z}{x} \Big)_y $$: これも陽微分で、普通に微分係数$$ a $$そのものになる。

以上の結果を表に纏めると:

微分種類
$$ \Big( \ppd{x}{y} \Big)_z $$陰微分$$ \iro[ak]- \ffd{b}{a} $$
$$ \Big( \ppd{y}{z} \Big)_x $$陽微分$$ \iro[ai]+ \ffd{1}{b} $$
$$ \Big( \ppd{z}{x} \Big)_y $$$$ \iro[ai]+ {\,a\,} $$

したがって、陽関数のオイラーの連鎖式は以下のように読み替えできる:

$$ \Big(\! \ppd{x}{y} \!\Big)_z $$$$ \Big(\! \ppd{y}{z} \!\Big)_x $$$$ \Big(\! \ppd{z}{x} \!\Big)_y $$$$ = $$$$ \Big(\! \iro[ak]- \ffd{b}{a} \!\Big) $$$$ \Big(\! \iro[ai]+ \ffd{1}{b} \!\Big) $$$$ \Big(\! \iro[ai]+{\,a\,} \!\Big) $$$$ = $$$$ \iro[ak]- 1 $$

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