温度単位の換算 EditToHeaderToFooter

日本では、温度の単位にケルビン$$ \textrm{K} $$とセルシウス度$$ {}^\circ\textrm{C} $$が一般的に用いられている*1
歴史的理由により、自然科学では$$ \textrm{K} $$、日常的には$$ {}^\circ\textrm{C} $$と使い分けされる。
$$ \textrm{K} $$$$ {}^\circ\textrm{C} $$の換算が加算関係であるのが特徴で、乗算関係が多い単位換算では例外的である。

例えば、$$ L $$$$ = $$$$ x $$$$ \textrm{km} $$$$ = $$$$ y $$$$ \textrm{cm} $$と同じ長さ異なる単位で表すと換算は$$ x $$$$ = $$$$ y $$$$ \times $$$$ 0.00001 $$になる。
対して、$$ \varTheta $$$$ = $$$$ x $$$$ \textrm{K} $$$$ = y $$$$ {}^\circ\textrm{C} $$と同じ温度を異なる単位で表すと換算は$$ x $$$$ = $$$$ y $$$$ + $$$$ 273.15 $$になる。

SI単位系で数値を表すには、$$ x $$$$ = $$$$ L{/}{}\textrm{km} $$$$ y $$$$ = $$$$ L{/}\textrm{m} $$と、量を単位で割った表記を使う*2
この表記を使えば、乗算関係にある単位換算は次のように記述でき、
式から$$ L $$を打消して、分母を払えば、良く用いられる$$ 1 $$$$ \textrm{km} $$$$ = $$$$ 100\,000 $$$$ \textrm{cm} $$*3になる:

$$ \ffd{L}{\textrm{km}} $$$$ = $$$$ \ffd{L}{\textrm{cm}} $$$$ \times $$$$ \ffd{1}{100\,000} $$

温度の場合は$$ x $$$$ = $$$$ \varTheta{/}\textrm{K} $$$$ y $$$$ = $$$$ \varTheta{/}{}^\circ\textrm{C} $$と表記でき*4、温度単位の換算はこうなる:

$$ \ffd{\varTheta}{\textrm{K}} $$$$ = $$$$ \ffd{\varTheta}{{}^\circ\textrm{C}} $$$$ + $$$$ 273.15 $$

*1 http://www.meti.go.jp/committee/materials/downloadfiles/g50913a412j.pdf
*2 国際文書第8版 国際単位系(SI) 日本語版 5.3.1 量の値と数値,及び量の四則演算 (p43-44) https://www.nmij.jp/library/units/si/R8/SI8J.pdf
*3 この換算表記は、乗算関係を前提にしていることに注意。
*4 SI単位系の表記では絶対温度を$$ T $$、セルシウス温度を$$ t $$と書き分けるている。
しかし、単位の違いと見なす場合は同じ温度を指すため、凌宮数学では一の量記号を$$ \varTheta $$に統一する。
したがって、この考え方は非SI的と言える。

比例式に与える影響 EditToHeaderToFooter

一般に、温度と比例関係にある法則を定式化した場合、量の方程式は当然比例式になる。
しかし、数値方程式では、絶対温度$$ \textrm{K} $$を用いた場合は同形の比例式になるのに対し、
セルシウス温度$$ {}^\circ\textrm{C} $$を用いた場合は比例式にならず少し複雑な式に化ける。

例えば、シャルルの法則では気体の温度$$ \varTheta $$は体積$$ V $$に比例し*5、量方程式は比例式になる。
$$ \varTheta_0 $$$$ = $$$$ 0{}^\circ\textrm{C} $$における気体の体積を$$ V_0 $$とすると、シャルルの法則は表1にある各式に書けて、
セルシウス温度を用いる場合のみ、温度の項毎に$$ 273.15 $$が加わり、比例式で無くなる。

表1:シャルルの法則
量方程式$$ \ffd{V}{V_0} $$$$ = $$$$ \ffd{\varTheta}{\varTheta_0} $$$$ \varTheta $$$$ \propto $$$$ \varTheta_0 $$
数値
方程式
絶対
温度
$$ \ffd{V{/}\textrm{m}^3}{V_0{/}\textrm{m}^3} $$$$ = $$$$ \ffd{\varTheta{/}\textrm{K}}{\varTheta_0{/}\textrm{K}} $$$$ \varTheta{/}\textrm{K} $$$$ \propto $$$$ \varTheta_0{/}\textrm{K} $$
セルシウス
温度
$$ \ffd{V{/}\textrm{m}^3}{V_0{/}\textrm{m}^3} $$$$ = $$$$ \ffd{\varTheta{/}{}^\circ\textrm{C} + 273.15}{\varTheta_0{/}{}^\circ\textrm{C} + 273.15} $$*6$$ \varTheta{/}{}^\circ\textrm{C} $$$$ \propto\!\!\!\!\!\!/\;\, $$$$ \varTheta_0{/}{}^\circ\textrm{C} $$
*5 理想気体であり、かつ、圧力一定。
*6 良く見る形は、$$ \ffd{\varTheta{/}{}^\circ\textrm{C} + 273.15}{T_0{/}{}^\circ\textrm{C} + 273.15} $$$$ = $$$$ \ffd{T{/}{}^\circ\textrm{C} + 273.15}{273.15} $$$$ = $$$$ \ffd{T{/}{}^\circ\textrm{C}}{273.15} $$$$ + $$$$ 1 $$$$ T_0 $$$$ = $$$$ 0{}^\circ\textrm{C} $$であるため$$ T_0/{}^\circ\textrm{C} $$$$ = $$$$ 0 $$

量の換算 ── 基準違いの相対温度 EditToHeaderToFooter

SI単位系では$$ {}^\circ\textrm{C} $$$$ \textrm{K} $$の違いを単位の違いと見なすが、これらを量の違いと見なすことも可能:

  • 絶対と名乗る絶対温度$$ \varTheta $$は、熱力学限界値$$ 0 $$$$ \textrm{K} $$を基準とした相対温度$$ T $$と見なせる。
  • セルシウス温度$$ \varTheta $$は、水の凝固点温度$$ T_0 $$$$ = $$$$ 273.15 $$$$ \textrm{K} $$を基準とした相対温度$$ t $$と見なせる。

この視点では、$$ {}^\circ\textrm{C} $$$$ \textrm{K} $$の単位変換は$$ T $$$$ t $$の量の変換に変わる:

相対温度において、$$ {}^\circ\textrm{C} $$$$ \textrm{K} $$は全く同じ単位となる。
日常的に使われるセルシウス温度を表すのに$$ {}^\circ\textrm{C} $$が好まれる程度の違いでしかない。
このため、$$ T_0 $$$$ 273.15 $$$$ \textrm{K} $$と表記しても$$ 273.15 $$$$ {}^\circ\textrm{C} $$と表記しても同じである*8

量の換算に基づく考え方では、以下の2点において単位換算よりも汎用的と言える。

  • 温度と温度差が相対温度に統一され、単位も統一される。
  • 圧力や高度など、温度以外の物理量においても通用する。
*7 SI単位系では$$ T_0 $$を移項した式でセルシウス温度を定義している。
*8 相対温度の考え方では$$ T_0 $$という物理量自身に絶対零度を基準にしている意味が含まれるため、
温度差と同様、$$ {}^\circ\textrm{C} $$を使っても水の凝固点からの温度にならないことに注意。

圧力における類似例 EditToHeaderToFooter

圧力では、ゲージ圧と絶対圧と呼ばれる2つの基準が良く用いられる*9

  • ゲージ圧: 大気圧を基準とした圧力で、セルシウス温度と同様に正圧と負圧に分かれる。
  • 絶対圧: 真空を基準とした圧力で、絶対温度と同様に負圧の概念は無い。

ゲージ圧$$ p $$と絶対圧$$ P $$には、大気圧$$ P_0 $$を介した加算換算が成り立つ。

$$ P $$$$ = $$$$ p $$$$ + $$$$ P_0 $$

温度と事情が異なるのは、大気圧$$ P_0 $$の値は、約$$ 101.33 $$$$ \textrm{kPa} $$であるが、厳密には気圧変動に依存する。
気圧変動は場所と時間に依存するため、ゲージ圧と絶対圧の変換を単位間の変換としては扱えない。
その結果、ゲージ圧や絶対圧は常に量の概念であり、同じ圧力単位が使われる。

ただし、工学的には単位の後ろに以下の記号を付けて明記する場合があり、
特に$$ \textrm{G} $$$$ \textrm{A} $$の表記は$$ \textrm{MPaG} $$$$ \textrm{MPaA} $$と単位に空白無しで綴られ、単位のように振舞う場合がある。

ゲージ圧:$$ \textrm{[gage]} $$$$ \textrm{(gage)} $$$$ \textrm{(g)} $$$$ \textrm{(G)} $$$$ \textrm{G} $$
絶対圧 :$$ \textrm{[abs]} $$$$ \textrm{(abs)} $$$$ \textrm{(a)} $$$$ \textrm{(A)} $$$$ \textrm{A} $$
*9 ORION > 真空単位(ゲージ圧と絶対圧) http://www.orionkikai-vacuum-pump.com/tech03-4.html

高度における類似例 EditToHeaderToFooter

高度では、基準点の違いで地上高度と海抜高度の2種類が良く用いられる*10

  • 地上高度:地表を基準とした高度、「地上$$ 10.5 $$$$ \textrm{m} $$」のように表記される。
  • 海抜高度:海面を基準とした高度、「海抜$$ 12.1 $$$$ \textrm{m} $$」のように表記される。

地上高度$$ h $$と海抜高度$$ H $$には、地面の海抜高度$$ H_0 $$を介した加算変換が成り立つ:

$$ H $$$$ = $$$$ h $$$$ + $$$$ H_0 $$

ここで、地面の海抜高度$$ H_0 $$も大気圧$$ P_0 $$と同様、場所と時間*11に依存する。
このため、地上高度と海抜高度を単位変換としては扱えない((前述の「セルシウス温度を相対温度とする見方において、$$ {}^\circ\textrm{C} $$$$ \textrm{K} $$は全く同じ単位」とは、この海抜高度の$$ \textrm{m} $$と地上高度の$$ \textrm{m} $$と同じほど区別する必要がない意味であることに注意。))。
また、工学でも単位で区別する習慣は無い。

*10 富士屋50周年記念事業 スーパー富士屋津波避難タワー
*11 地震などにより地殻変動が起きた場合。

演算の加法変換依存性 EditToHeaderToFooter

これまでに、温度換算に関する2種類の考え方を紹介してきた。
換算式は全て単位換算では珍しい加算関係であり*12
ケルビン$$ \textrm{K} $$とセルシウス度$$ {}^\circ\textrm{C} $$の単位変換として考える場合は$$ \ffd{T}{\textrm{K}} $$$$ = $$$$ \ffd{T}{{}^\circ\textrm{C}} $$$$ + $$$$ 273.15 $$
絶対温度$$ T $$とセルシウス温度$$ t $$の量の変換として考える場合は$$ T $$$$ = $$$$ t $$$$ + $$$$ T_0 $$になる。

冒頭で挙げたシャルルの法則のように、乗算関係の換算を持つ多くの量とは異なる性質を示す。
以下では、基本的な演算の加算変換依存性について列挙する。
なお、量の変換として扱い、$$ T $$で絶対温度、$$ t $$でセルシウス温度を表すとする。

*12 量の変換と考えた場合、あまり珍しくはないことに注意。

温度比 ── 加法変換依存 EditToHeaderToFooter

状態$$ A $$と状態$$ B $$があり、温度や温度比を以下のように置く:

 対象温度基準温度温度比
絶対温度   $$ T_A $$$$ T_B $$$$ T_A $$$$ / $$$$ T_B $$
セルシウス温度$$ t_A $$$$ t_B $$$$ t_A $$$$ / $$$$ t_B $$

$$ \ffd{T_A}{T_B} $$$$ T $$$$ = $$$$ t $$$$ + $$$$ T_0 $$を代入しても、$$ T_0 $$が打消せず、温度比が加法変換に依存するのが直ちに分かる。

$$ \ffd{T_A}{T_B} $$$$ = $$$$ \ffd{t_A + T_0}{T_B + T_0} $$$$ \iro[ak]{\neq} $$$$ \ffd{t_A}{t_B} $$

このため、温度比を含むシャルルの法則やカルノーサイクルの効率などの熱力学法則では、基準を絶対零度に決める必要がある。
高度の例も同様、高度を比で比べるには基準を決める必要がある。
建物を比べる場合は地上高度、山を比べる場合は海抜高度が用いられるように、両方が実用的意味を持ち、使い分けが必要である。

温度差 EditToHeaderToFooter

例えば、状態$$ A $$と状態$$ B $$があり、温度や状態$$ B $$を基準とする温度差を以下のように置く:

座標系対象温度基準温度温度差
絶対温度   $$ T_A $$$$ T_B $$$$ \varDelta T $$$$ = $$$$ T_A $$$$ - $$$$ T_B $$
セルシウス温度$$ t_A $$$$ t_B $$$$ \varDelta t $$$$ = $$$$ t_A $$$$ - $$$$ t_B $$

$$ varDelta T $$$$ T $$$$ = $$$$ t $$$$ + $$$$ T_0 $$を代入すると、$$ T_0 $$が打消し、温度差が加法変換に依存しないことが分かる。

$$ \varDelta T $$$$ = $$$$ T_A $$$$ - $$$$ T_B $$$$ = $$$$ ( $$$$ t_A $$$$ + $$$$ \cancel{T_0} $$$$ ) $$$$ - $$$$ ( $$$$ t_B $$$$ + $$$$ \cancel{T_0} $$$$ ) $$$$ = $$$$ t_A $$$$ - $$$$ t_B $$$$ = $$$$ \varDelta t $$

このため、いわゆる「温度の差」は絶対温度やセルシウス温度の基準に依らない。この結論は、状態$$ B $$を基準に設定している時点で自明であり、その設定と辻褄が合う。

温度差の比 EditToHeaderToFooter

温度和と平均温度 ── 座標依存量と座標不変量の違い EditToHeaderToFooter

$$ \varDelta\theta $$$$ = $$$$ \theta_A $$$$ + $$$$ \theta_B $$$$ = $$$$ ( $$$$ T_A $$$$ + $$$$ 273.15 \textrm{K} $$$$ ) $$$$ + $$$$ ( $$$$ T_B $$$$ + $$$$ 273.15 \textrm{K} $$$$ ) $$$$ = $$$$ T_A $$$$ + $$$$ T_B $$$$ + $$$$ 546.3 \textrm{K} $$$$ \iro[ak]{\neq} $$$$ \Sigma T $$

座標系対象温度基準温度温度和
地上高度$$ h_A $$$$ h_B $$$$ \Sigma h $$$$ = $$$$ h_A $$$$ + $$$$ h_B $$
海抜高度$$ H_A $$$$ H_B $$$$ \Sigma H $$$$ = $$$$ H_A $$$$ + $$$$ H_B $$

地上高度の和$$ \Sigma h $$$$ h $$$$ = $$$$ H $$$$ + $$$$ 12.1 \textrm{m} $$を代入すると、海抜高度の和とは異なる量になる。

$$ \Sigma h $$$$ = $$$$ h_A $$$$ + $$$$ h_B $$$$ = $$$$ ( $$$$ H_A $$$$ + $$$$ 12.1 \textrm{m} $$$$ ) $$$$ + $$$$ ( $$$$ H_B $$$$ + $$$$ 12.1 \textrm{m} $$$$ ) $$$$ = $$$$ H_A $$$$ + $$$$ H_B $$$$ + $$$$ 24.2 \textrm{m} $$$$ \iro[ak]{\neq} $$$$ \iro[ak]{\Sigma H} $$

このため、高度の和は使う座標系に依存し、地上高度の和と海抜高度の和は異なる物理量になると言える。

地上高度$$ h_A $$$$ h_B $$$$ \Sigma\mspace{-14mu}\raise0.25ex\hbox{\(-\)}h $$$$ = $$$$ h_A $$$$ - $$$$ h_B $$
海抜高度$$ H_A $$$$ H_B $$$$ \Sigma\!\!\!\!{-}H $$$$ = $$$$ H_A $$$$ - $$$$ H_B $$

参考 EditToHeaderToFooter

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