概要 EditToHeaderToFooter

世の中には実数を全て厳密に表すことができず、実験や工学では近似値として扱う必要がある。
そこで、有効数字という概念が登場し、近似値が表すことになる値の区間を考える必要がある。
有効数字を正しく扱えないと、正しい結果が保障されなくなる。

しかし、世の中には便利な区間表記が無いせいか、
高校や大学の授業で有効数字の扱い方を教しえるものの、
有効数字の表す区間として扱って評価する例はあまり見かけない。

そこで、最近見かけた問題を区間として有効数字を解析してみる。

問題 EditToHeaderToFooter

https://twitter.com/y_bonten/status/649834242617118720 より
常用対数で大きい整数の桁数を予測する問題において、有効数字の配慮不足で誤答に至った例が紹介された。
丁寧にも、正解とされた方も、有効数字に対する配慮が足りず、正解の保障が無いことも指摘されている。

例題に丁度良いので、以下引用:

〔教師による不正解〕

  $$ \log_{10} 36^{2001} $$$$ = $$$$ \log_{10} $$$$ 6^{4002} $$$$ = $$$$ 4002 $$$$ \log_{10} $$$$ 6 $$

  $$ \phantom{\log_{10} 36^{2001}} $$$$ = $$$$ 4002 $$$$ ( $$$$ \log_{10} $$$$ 2 $$$$ + $$$$ \log_{10} $$$$ 3 $$$$ ) $$

  $$ \phantom{\log_{10} 36^{2001}} $$$$ = $$$$ 4002 $$$$ \times $$$$ ( $$$$ 0.3010 $$$$ + $$$$ 0.4771 $$$$ ) $$

  $$ \phantom{\log_{10} 36^{2001}} $$$$ = $$$$ 4002 $$$$ \times $$$$ 0.7781 $$$$ = $$$$ 3113.9562 $$

よって,

  $$ 311\:3 $$$$ \log_{10} 36^{2001} $$$$ 311\:4 $$

したがって,

  $$ 36^{2001} $$$$ 311\:4 $$桁の整数である。

〔生徒による正解〕

  $$ \log_{10} 36^{2001} $$$$ = $$$$ \log_{10} $$$$ 6^{4002} $$$$ = $$$$ 4002 $$$$ \log_{10} $$$$ 6 $$

  

  $$ \phantom{\log_{10} 36^{2001}} $$$$ = $$$$ 4002 $$$$ \times $$$$ 0.7782 $$

  $$ \phantom{\log_{10} 36^{2001}} $$$$ = $$$$ 3114.3564 $$

よって,

  $$ 311\:4 $$$$ \log_{10} 36^{2001} $$$$ 311\:5 $$

したがって,

  $$ 36^{2001} $$$$ 311\:5 $$桁の整数である。

結論から言うと、有効数字の観点から、どちらも対数を有効数字4桁の近似値に直しているため、
$$ \log_{10} 36^{2001} $$の結果も有効なのは4桁までで、一の位が変わり得るため、どちらも「よって」が言えない。

区間演算で見る有効数字 EditToHeaderToFooter

以下では、同じ問題を区間演算で考え得るずれを可視化してみる。
なお、式の可読性を良くするため、一般的でない凌宮数学の区間表記を用いる。
四捨五入が使われるため、次の半開区間が扱われる:

  $$ a{:}.b $$$$ = $$$$ \{ $$$$ x $$$$ \pipe $$$$ a $$$$ x $$$$ b $$$$ \} $$

まずは、本当に誤答に至った 〔教師による不正解〕
  $$ \log_{10} 36^{2001} $$$$ = $$$$ \log_{10} $$$$ 6^{4002} $$$$ = $$$$ 4002 $$$$ \log_{10} $$$$ 6 $$
  $$ \phantom{\log_{10} 36^{2001}} $$$$ = $$$$ 4002 $$$$ ( $$$$ \log_{10} $$$$ 2 $$$$ + $$$$ \log_{10} $$$$ 3 $$$$ ) $$
  $$ \phantom{\log_{10} 36^{2001}} $$$$ \in $$$$ 4002 $$$$ \times $$$$ ( $$$$ 0.3001 $$$$ + $$$$ [-0.00005{:}.0.00005] $$$$ + $$$$ 0.4771 $$$$ + $$$$ [-0.00005{:}.0.00005] $$$$ ) $$
  $$ \phantom{\log_{10} 36^{2001}} $$$$ = $$$$ 4002 $$$$ \times $$$$ ( $$$$ 0.7781 $$$$ + $$$$ [-0.0001{:}.0.0001] $$$$ ) $$
  $$ \phantom{\log_{10} 36^{2001}} $$$$ = $$$$ 3113.9562 $$$$ + $$$$ [-0.4002{:}.0.4002] $$
  $$ \phantom{\log_{10} 36^{2001}} $$$$ = $$$$ 3113.5560{:}.3114.3564 $$
よって、$$ 3113.5560 $$$$ \log_{10} 36^{2001} $$$$ 3114.3564 $$
したがって、$$ 36^{2001} $$$$ 3114 $$または$$ 3115 $$桁の整数である。

つぎに、正答とされている 〔生徒による正解〕
  $$ \log_{10} 36^{2001} $$$$ = $$$$ \log_{10} $$$$ 6^{4002} $$$$ = $$$$ 4002 $$$$ \log_{10} $$$$ 6 $$
  $$ \phantom{\log_{10} 36^{2001}} $$$$ \in $$$$ 4002 $$$$ \times $$$$ ( $$$$ 0.7782 $$$$ + $$$$ -0.00005{:}.0.00005 $$$$ ) $$
  $$ \phantom{\log_{10} 36^{2001}} $$$$ \in $$$$ 3114.3564 $$$$ + $$$$ -0.2001{:}.0.2001 $$$$ ) $$
  $$ \phantom{\log_{10} 36^{2001}} $$$$ = $$$$ 3114.1563{:}.3114.5565 $$
よって、$$ 3114.1563 $$$$ \log_{10} 36^{2001} $$$$ 3114.5565 $$
したがって、$$ 36^{2001} $$$$ 3115 $$桁の整数である。

不正解の方は下限の$$ 3113.5560 $$と上限の$$ 3114.3564 $$の整数部が異なるため、
推定できる桁数が唯一に決まらず、幅を持った解答になる。
対して、正解の方は上限$$ 3114.1563 $$と下限$$ 3114.5565 $$の整数部が一致し、
推定できる桁数が唯一に決まる。

式変形において加算のために誤差の区間が$$ 2 $$倍に拡大されているのが分かる。
そのため、例え$$ \log_{10} $$$$ 2 $$$$ + $$$$ \log_{10} $$$$ 3 $$$$ = $$$$ \log_{10} $$$$ 6 $$が厳密に成り立つとしても、
これらを誤差付き数字に直した途端($$ 0.3001 $$$$ + $$$$ 0.4771 $$$$ = $$$$ 0.7782 $$)等号の左右で誤差区間が異なる*1って、成立しなくなる。

そもそも、誤差付き数では$$ 1.0 $$$$ + $$$$ 1.0 $$$$ = $$$$ 2.0 $$すら成り立たない ── 等号の左右で誤差区間が異なる:

  $$ 1 $$$$ + $$$$ [-0.05{:}.0.05] $$$$ + $$$$ 1 $$$$ + $$$$ [-0.05{:}.0.05] $$$$ = $$$$ 2 $$$$ + $$$$ \iro[ak]{[-0.1{:}.0.1]} $$$$ \iro[ak]{\neq} $$$$ 2 $$$$ + $$$$ \iro[ak]{[-0.05{:}.0.05]} $$

このため、本来は足し算一つでも神経を使う必要がある。

*1 左辺が$$ [-0.0001{:}.0.0001] $$であるのに対し、右辺の$$ 0.7782 $$は通常$$ [-0.00005{:}.0.00005] $$の誤差付きを表す。

まとめ・つなぎ EditToHeaderToFooter

対数の有効数字を扱った例: http://photo-m.tp.chiba-u.jp/~yjo/tips/sign_figures.html

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