概要 EditToHeaderToFooter

2017年夏、大気圏再突入時における熱の壁に関するJAXAの説明が物議を醸している。
  http://iss.jaxa.jp/kids/faq/kidsfaq10.html

「地球の大気圏に突入した宇宙船は高温になりますが、この熱はどうして発生するのですか」
という質問に対し、「断熱圧縮」とした上で、
「宇宙船と空気との摩擦による発熱ではありません」と補足している。

断熱圧縮と答えれば済むものの、ワザワザ蛇足を付け加えるのはなぜか。
反応を見ると、「摩擦」と信じている人が一定数居るからであろう*1
しかも、教科書から博物館の資料まで「摩擦」と書いている状態である。

以下に調べたことを纏める。

中学校物理 EditToHeaderToFooter

大日本2015#28:『新版 理科の世界3』 EditToHeaderToFooter

  • 出版:大日本図書、教科書センター用見本
  • 検定:中学校理科用 文部科学書検定済教科書 4大日本 理科928

単元5「地球と宇宙」の4章「太陽系と銀河系」の2節「太陽系のすがた」にて、
P242の「衛星などその他の天体」の中、彗星に付随して流星が説明されている:

おもにすいせ星から放出されたちりが地球の大気とぶつかって光る現象が流星である。

要点を抜くと、「ちり大気ぶつかって」だから正しい。

東京書籍2015#27:『新編 新しい科学3』 EditToHeaderToFooter

ー 出版:東京書籍、教科書センター用見本

  • 検定:中学校理科用 文部科学書検定済教科書 2東書 理科927

該当無し。

学校書籍2015#29:『中学校 科学3』 EditToHeaderToFooter

ー 出版:学校書籍、教科書センター用見本

  • 検定:中学校理科用 文部科学書検定済教科書 11学図 理科929

該当無し。

教育出版2015#31:『自然の探究 中学校 理科3』 EditToHeaderToFooter

ー 出版:学校書籍、教科書センター用見本

  • 検定:中学校理科用 文部科学書検定済教科書 17教出 理科931

該当無し。

啓林館2015#25:『未来へひろがる サイエンス3』 EditToHeaderToFooter

ー 出版:学校書籍、教科書センター用見本

  • 検定:中学校理科用 文部科学書検定済教科書 61啓林館 理科925

[2分野]生命・地球編、〈地球〉地球と宇宙、2章「太陽系の天体」
P52にて、彗星に付随して流星が説明される:

すい星から放出されたちりが地球の大気と衝突すると、地上からは流星として見える。

要点を抜くと、「ちり大気衝突する」だから正しい。

啓林館2017#32:『未来へひろがる サイエンス3』 EditToHeaderToFooter

ー 出版:学校書籍、教科書センター用見本

  • 検定:中学校理科用 文部科学書検定済教科書 61啓林館 理科932

[2分野]生命・地球編、〈地球〉宇宙の中の地球、1章「地球とその外側の世界」
P39にて、やはり彗星に付随して流星が説明される:

すい星の軌道には、放出されたちりが多数残っていて、

これが地球の大気と衝突すると、摩擦で光り、流星として観測できる。

要点を抜くと、「これ=ちり大気衝突する」までは正しい。
しかし、「摩擦で光り」で摩擦説。

東京書籍2008#62:『新訂 新しい科学 2分野下』 EditToHeaderToFooter

ー 出版:東京書籍、教科書センター用見本

  • 検定:中学校理科用 文部科学書検定済教科書 2東書 理ニ762

単元7「人間と自然」1章「宇宙のオアシス─地球」1節「地球を包む大気の役割はなにか」
P164で、コラムとして流星を紹介している:

宇宙からの弾丸(流星)

 太陽系内をとび回っているちりや砂などは、毎日十数トンも地表に落下している。

このうち0.01g〜1g前後のものは、地上100km付近で毎秒50kmのスピードになり、

大気との摩擦熱で発光する。これが流星である。

要点を抜くと、「ちりや砂など大気との摩擦熱で発光する」で摩擦説。

考察 EditToHeaderToFooter

以上のように、流星の扱いに関して、出版社と時期によって扱いが異なる。
定量的なことを言うには、調査範囲をもう少し広げる必要があるが、
定性的には以下が言えると思う。

教科書で、大気圏突入の際の熱を「摩擦」で説明する事例はある。
このため、学校でそう教えられ、「摩擦熱」と覚えてしまう人が生じる。

まず、中学校の物理では流体力学を学んでないため、
恐らく多くの人は固体物理の摩擦でイメージすることになる。
── すなわち、固体と流体の境界が滑り、擦れて発熱すると。

しかし、流体力学の事実は、境界では滑らず、流体内部で滑る。
これは、滑らない机の上に滑る油紙を百枚重ねれば、固体物理の知識でも想像可能。
── 一番上の紙を滑らせたら、一番下の紙が動かず、油紙同士が滑る。

次に、大気圏突入では音速以上の速度で突入するため、衝撃波が発生する。
衝撃波を跨がる領域では、圧力と温度を含む諸々の状態が急激変化する。
圧力の急変により発熱するため、これは断熱圧縮に分類される。

しかも、衝撃波は落下物の表面に張り付くわけではなく、
真っ正面も含め、落下物の表面から少し隙間を空けて浮いている。
このため、発熱は落下物の表面ではなく、大気中ということになる。

これらを中学校物理の1分野物理の知識で想像させるのは無茶であろう。
だから、多くの人は教科書に書いている知識を覚えるしかない。

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