概要 EditToHeaderToFooter

2017年夏、大気圏再突入時における熱の壁に関するJAXAの説明が物議を醸している。
  http://iss.jaxa.jp/kids/faq/kidsfaq10.html

「地球の大気圏に突入した宇宙船は高温になりますが、この熱はどうして発生するのですか」
という質問に対し、「断熱圧縮」とした上で、
「宇宙船と空気との摩擦による発熱ではありません」と補足している。

断熱圧縮と答えれば済むものの、ワザワザ蛇足を付け加えるのはなぜか。
反応を見ると、「摩擦」と信じている人が一定数居るからであろう*1
しかも、教科書から博物館の資料まで「摩擦」と書いている状態である。

以下に調べたことを纏める。

物理 EditToHeaderToFooter

高校気琶かる説明 EditToHeaderToFooter

大気圏突入時の物理は、司馬さんのサイトが簡潔に纏められ、アクセスし易い。
  最近の隕石と淡路の化石/火球のページ/流星物理教室/流星はなぜ光るのか
流星物理教室では、「流星に関する物理を数式無しで、
高等学校の「物理I」程度の知識で理解できる」努力がなされている。

要点を纏めると、

  • 地上90km以上では大気が薄すぎて流体の性質を持たず、単に分子衝突である。
  • 地上80km以下では大気が濃くなり流体の性質を持ち、断熱圧縮と摩擦が発生する。
  • 突入速度が音速よりも速いため、圧倒的に断熱圧縮による発熱が支配的である。

中学生でも分かって欲しい説明 EditToHeaderToFooter

これを中学校で学ぶ物理で分かりやすくイメージするには、
滑らない机の上に、滑る油紙を100枚重ねた思考実験をすれば良い*2

摩擦 EditToHeaderToFooter

まず、摩擦について。
中学校理科では、固体と固体の摩擦について観察する。
そのため、固体と固体の境界が滑り、擦れて発熱するが摩擦なのは想像できる。

これを固体と流体に適応すると、固体と流体の境界が滑ると考えがちだが、
事実は:固体と流体の境界が滑らず、流体の中で滑る。
油紙の一番上を横に動かすと、一番下の油紙が動かず、油紙間で滑る。
油紙間が滑るから擦れて熱が発生し、これが摩擦熱である。

流体力学では、流体内部の滑りを粘性と言い、
粘性を考慮して式を複雑にする必要のある流体を粘性流体と言う。
具体的な配慮は、固体と流体の間は滑らないという滑り無し条件を入れ、
次に、境界から離れた距離と移動量である速度勾配を計算することである。

断熱圧縮 EditToHeaderToFooter

次に、断熱圧縮について。
中学校理科では、フラスコの中で雲を作る実験を扱う。
  NHK for School/雲を作る実験─中学
圧力を下げると温度が下がり、圧力を上げると温度が上がる。
これが断熱膨張と断熱圧縮である。

油紙の実験では、一番上の油紙を押しつぶすようにすれば良い。
油紙を百枚も重ねれば厚みもあって、力を掛ければ多少は押し潰される。
しかし、机と油紙、そして、油紙間の何れでも滑りが発生しない。
油紙が押し潰されて変形するから熱が発生し、これが圧縮熱である。

衝撃波 EditToHeaderToFooter

続けて衝撃波について。
中学校理科では、音速を扱うから、音は音速で伝搬するのは理解できる。
さらに、音は空気の揺れで、圧力変動が正体というのも理解できる。
この2つを合わせると、圧力変動が音速で伝わるのが言える。

そこで、大気の中を音速で移動すると、前方の空気は押されて高圧になる。
しかし、高速で移動するので圧力変動が前方に伝わらず、更に前は常圧のまま。
その結果、常圧と高圧の境界面が生じて、これが衝撃波である。

大気圏突入での発熱 EditToHeaderToFooter

最後に、摩擦と断熱圧縮、衝撃波の知見を合わせると、

  • 音速以上の速度で大気圏に突入すると衝撃波が生じる。
  • 衝撃波が生じると急激な圧力向上が発生し、大量の圧縮熱が生じる。
  • この圧縮熱は摩擦熱よりも遙かに大きい。

このため、大気圏突入時の熱は「摩擦熱」よ言うよりは、
「断熱圧縮の熱」と言うべき。

*2 もちろん、実際にやっても良い。

中学校物理 EditToHeaderToFooter

大日本2015#28:『新版 理科の世界3』 EditToHeaderToFooter

  • 出版:大日本図書、教科書センター用見本
  • 検定:中学校理科用 文部科学書検定済教科書 4大日本 理科928

単元5「地球と宇宙」の4章「太陽系と銀河系」の2節「太陽系のすがた」にて、
P242の「衛星などその他の天体」の中、彗星に付随して流星が説明されている:

おもにすいせ星から放出されたちりが地球の大気とぶつかって光る現象が流星である。

要点を抜くと、「ちり大気ぶつかって」だから正しい。

東京書籍2015#27:『新編 新しい科学3』 EditToHeaderToFooter

ー 出版:東京書籍、教科書センター用見本

  • 検定:中学校理科用 文部科学書検定済教科書 2東書 理科927

該当無し。

学校書籍2015#29:『中学校 科学3』 EditToHeaderToFooter

ー 出版:学校書籍、教科書センター用見本

  • 検定:中学校理科用 文部科学書検定済教科書 11学図 理科929

該当無し。

教育出版2015#31:『自然の探究 中学校 理科3』 EditToHeaderToFooter

ー 出版:学校書籍、教科書センター用見本

  • 検定:中学校理科用 文部科学書検定済教科書 17教出 理科931

該当無し。

啓林館2015#25:『未来へひろがる サイエンス3』 EditToHeaderToFooter

ー 出版:学校書籍、教科書センター用見本

  • 検定:中学校理科用 文部科学書検定済教科書 61啓林館 理科925

[2分野]生命・地球編、〈地球〉地球と宇宙、2章「太陽系の天体」
P52にて、彗星に付随して流星が説明される:

すい星から放出されたちりが地球の大気と衝突すると、地上からは流星として見える。

要点を抜くと、「ちり大気衝突する」だから正しい。

啓林館2017#32:『未来へひろがる サイエンス3』 EditToHeaderToFooter

ー 出版:学校書籍、教科書センター用見本

  • 検定:中学校理科用 文部科学書検定済教科書 61啓林館 理科932

[2分野]生命・地球編、〈地球〉宇宙の中の地球、1章「地球とその外側の世界」
P39にて、やはり彗星に付随して流星が説明される:

すい星の軌道には、放出されたちりが多数残っていて、

これが地球の大気と衝突すると、摩擦で光り、流星として観測できる。

要点を抜くと、「これ=ちり大気衝突する」までは正しい。
しかし、「摩擦で光り」で摩擦説。

東京書籍2008#62:『新訂 新しい科学 2分野下』 EditToHeaderToFooter

ー 出版:東京書籍、教科書センター用見本

  • 検定:中学校理科用 文部科学書検定済教科書 2東書 理ニ762

単元7「人間と自然」1章「宇宙のオアシス─地球」1節「地球を包む大気の役割はなにか」
P164で、コラムとして流星を紹介している:

宇宙からの弾丸(流星)

 太陽系内をとび回っているちりや砂などは、毎日十数トンも地表に落下している。

このうち0.01g〜1g前後のものは、地上100km付近で毎秒50kmのスピードになり、

大気との摩擦熱で発光する。これが流星である。

要点を抜くと、「ちりや砂など大気との摩擦熱で発光する」で摩擦説。

一般書 EditToHeaderToFooter

三省堂 大辞林 第三版 EditToHeaderToFooter

ねつ の かべ [0] 【熱の壁】

超音速で飛ぶ飛行機の機体の金属が空気との摩擦熱に耐えうる限界。

要点を抜くと、「機体空気との摩擦熱」で摩擦説。

小学館 デジタル大辞泉 EditToHeaderToFooter

https://dictionary.goo.ne.jp/jn/170456/meaning/m0u/

ねつ‐の‐かべ【熱の壁】

  超音速で飛ぶ飛行機の、空力加熱に耐えうる速度の限界。

https://dictionary.goo.ne.jp/jn/60608/meaning/m0u/

くうりき‐かねつ【空力加熱】

  航空機や宇宙船などの飛行物体が空気中を高速運動するとき、

  空気が圧縮されて温度が上昇し、物体表面を加熱する現象。

要点を抜くと、「空気圧縮されて温度が上昇」で圧縮説。

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5章「小天体と流星に関するQ&A」─「流星と隕石はどこがちがうのか?」
P83 左段組中ほど、1段目の最後:

一般に高速の流星ほど明るく輝き、低速なものほど暗い。

もっとも低速といっても、秒速10キロはあるので、

上空100キロほどの希薄な大気の摩擦によって、ほとんどの流星は燃えつきる。

P83中段組上側、2段目先頭と中ほど:

 地球大気に突入してきて、摩擦で高温になり、発光する現象そのものは隕石も流星も同じである。

そして最終的にはしだいに厚くなる大気との摩擦衝撃に耐えきれず、途中で破裂してしまう。

「厚くなる大気」は恐らく誤用。
「摩擦衝撃」は「摩擦および衝撃」か、「摩擦を衝突の一種と見なし、その衝撃」かは曖昧。

考察 EditToHeaderToFooter

以上のように、流星の扱いに関して、出版社と時期によって扱いが異なる。
定量的なことを言うには、調査範囲をもう少し広げる必要があるが、
定性的には以下が言えると思う。

教科書で、大気圏突入の際の熱を「摩擦」で説明する事例はある。
このため、学校でそう教えられ、「摩擦熱」と覚えてしまう人が生じる。

問題は、教科書を鵜呑みにするのは良くないが、分かれというのは無茶がある。
物理の接で述べたように、中学校理科の知識で考えるにしても、
物理の固体摩擦と音の伝搬、そして、地学の雲の知識を統合する必要がある。
望ましくはないが、その統合ができるように教育してないのが現状と見受ける。

さらに質の悪いことに、音速以上で移動するため、摩擦熱もそれなり発生する。
圧縮熱に比べれば小さいなだけで、飛んでる飛行機の摩擦熱よりは遙かに大きい。
このため、教科書に「摩擦熱」と書かれたら、
安易に「音速を越えるのは速い⇒摩擦熱で高温なる」と納得するのも一理ある。

参考文献 EditToHeaderToFooter

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Last-modified: 2017.0723 (日) 0849.4600 (27d)