$$ F $$をベクトル$$ \:r $$で微分

ベクトル微分演算には勾配、回転、発散があり、ベクトル表記は主に次の二系統ある。

  • 関数表記:$$ \grad $$$$ \rot $$$$ \diver $$
  • ナブラ表記:$$ \:\nabla $$$$ \:\nabla \vx $$$$ \:\nabla \sx $$

ナブラ表記では、ベクトル演算をベクトル演算子で表記しているため、ベクトル微分の計算にベクトル演算の公式が利用できるなど、関数表記より便利な場合が多い。しかし、ナブラを微分対象の左隣に書かねばならない制約のため一部のベクトル計算で支障が出るため、まだ改善する余地がある。また、$$ \ddd{f}{x} $$のような分数形ではないため、ベクトル微分における連鎖則を約分の感覚で扱えない。

これに対し、猫式では$$ \ffd{1}{d \:r} $$でベクトルを、$$ d $$で微分対象を示し、ベクトル微分演算子を次のように定義し、ベクトル演算と微分演算の表記上での分離を実現する。

流派勾配回転発散
関数表記$$ \grad F $$$$ \rot \:F $$$$ \diver \:F $$
ナブラ表記$$ \:\nabla F $$$$ \:\nabla \vx \:F $$$$ \:\nabla \sx \:F $$
猫式表記演算子形$$ \ddd{}{\:r}F $$$$ \ddd{}{\:r}\vx \:F $$$$ \ddd{}{\:r}\sx \:F $$
分数形$$ \ddd{F}{\:r} $$$$ \ddd{\,\vx \:F}{\:r} $$$$ \ddd{\, \sx \:F}{\:r} $$
分離形$$ \ffd{1}{d \:r} dF $$$$ \ffd{1}{d \:r}\vx d \:F $$$$ \ffd{1}{d \:r}\sx d \:F $$

演算子形はナブラと完全互換な書式である*1。分数形は連鎖側のための書式である。ただし、分数形で書かれるスカラの微分が分数でないように、この分数形もベクトルの割り算ではない。分離形は微分演算とベクトル演算を別々計算するための書式である。これらの間は分数の感覚で自由に行き来できる。

*1 表記上$$ \:r $$は積分対象の独立変数と捕らえることができるため、ナブラよりは情報量が高い。熱力学など独立変数が変わる場合に便利。

分数形:勾配を含む連鎖則

$$ r $$がスカラの場合、$$ \ddd{F}{t} = \ddd{F}{r} \ddd{r}{t} $$$$ F(r(t)) $$に対する連鎖則。分数形で記述する場合、あくまでも形式的だが、約分の感覚で直観的に式変形できる。

$$ \:r $$がベクトルの場合、$$ \ddd{F}{t} = \grad F \sx \ddd{r}{t} $$$$ F(\:r(t)) $$に対する連鎖則。ナブラ表記でも$$ \ddd{F}{t} = \:\nabla F \sx \ddd{\:r}{t} $$と、表現力において関数表記と大差ない。

猫式表記の分数形で書けば、$$ \ddd{F}{t} = \ddd{F}{\:r} \sx \ddd{\:r}{t} $$になる。スカラの積が内積になることを除けば、連鎖則の姿がそのまま生き残り、式を直観的に操作できる。もっとも、スカラが1次元のベクトルと見なせて、その場合内積がスカラの積に対応するため、この式をスカラにも適応できる。

分離形:外積を含む分配則

ベクトルの外積は$$ \:A \vx \:B = - \:B \vx \:A $$のように、交換則の代わりに、交代則が成り立つ。一方、ナブラは右側しか微分しないため、$$ - \:\nabla \vx \:A = \:A \vx \:\nabla $$と書けない。高が符号一つだが、回転に対応する外積の交代則を記述できないがために、回転を含む微分演算の妨げになる。

猫式表記分離形を使えば、交代則は$$ \ffd{1}{d\:r} \vx d\:F = - d\:F \vx \ffd{1}{d\:r} $$と書ける。したがって、外積を含む公式を扱う際に微分演算子であることを考えずにベクトル外積の公式を適応できる。

外積の勾配

外積の勾配の公式:$$ \grad(\:F \vx \:G) = \:G \sx (\rot \:F) - \:F \sx (\rot \:G) $$

ナブラ表記を使えば、積の微分、スカラ三重積の交換則、外積の交代則から形式的に導き出すことができる。

  • 積の微分:$$ d(\:A \vx \:B) = (d\:A) \vx \:B + \:A \vx (d\:B) $$
  • スカラ三重積の交換則:$$ \:A \sx (\:B \vx \:C) = \:B \sx (\:C \vx \:A) = \:B \sx (\:C \vx \:A) $$
  • 外積の交代則:$$ \:A \vx \:B = - \:B \vx \:A $$

ただし、計算途中で微分対象の表現に一工夫が必要になる。良く見かける手法として、ナブラと作用対象を線または矢印で結ぶ記法がある。

$$ \phantom{=} \:\nabla \sx (\:F \vx \:G) \vphantom{\Big[} $$

$$ = \, \mspace{2mu }\overbracket{\mspace{-5mu } \:\nabla \sx (\:F \vx \:G) \mspace{-49mu }}\mspace{49mu } + \,\, \mspace{2mu }\overbracket{\mspace{-5mu } \:\nabla \sx (\:F \vx \:G) \mspace{-12mu }}\mspace{12mu } \vphantom{\Big[} $$

微分対外積の分配則

$$ = \:G \sx (\:\nabla \vx \:F) + \, \mspace{39mu }\overbracket{\mspace{-42mu } \:F \sx (\:G \vx \:\nabla) \mspace{-12mu }}\mspace{12mu } \vphantom{\Big[} $$

スカラ三重積の交換則

$$ = \:G \sx (\:\nabla \vx \:F) - \:F \sx (\:\nabla \vx \:G) \vphantom{\Big[} $$

外積の交代則

一方、猫式表記の分離形では次のように記述可能。遊離した$$ d $$は自由に動けるため、微分対象を$$ \ffd{1}{\:r} $$の左に置いても問題ない。

$$ \phantom{=} \, \ffd{1}{d \:r} \sx d(\:F \vx \:G) $$

$$ = \ffd{1}{d \:r} \sx (d \:F \vx \:G) + \ffd{1}{d \:r} \sx (\:F \vx d \:G) $$

微分対外積の分配則

$$ = \:G \sx (\ffd{1}{d \:r} \vx d \:F) + \:F \sx (d \:G \vx \ffd{1}{d \:r}) $$

スカラ三重積の交換則

$$ = \:G \sx (\ffd{1}{d \:r} \vx d \:F) - \:F \sx (\ffd{1}{d \:r} \vx d \:G) $$

外積の交代則

回転を含む他の公式はこちら:ベクトル微分演算子/回転公式

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