反変ベクトルと共変ベクトル EditToHeaderToFooter

一般に、双対関係にある基底$$ \:e_i $$$$ \:e^i $$に対し、基準となる$$ \:e_i $$を共変基底、$$ \:e^i $$を反変基底と呼ぶ*1
他方、ベクトル$$ \:A $$$$ \:A $$$$ = $$$$ \sum $$$$ A^i $$$$ \:e_i $$$$ = $$$$ \sum $$$$ A_i $$$$ \:e^i $$と表し、$$ A^i $$を反変成分、$$ A_i $$を共変成分と呼ぶ。

ベクトルやスカラが持つ座標不変性のため、
ベクトルの成分と基底は反変と共変が入れ混じる形で、混乱しやすい。
また、上付きと下付きによる表現は反変と共変を表すのに強力ではあるが、
計量的イメージと離れるため更に分かり難い面がある。

これに対し、凌宮数学では双対基底を正基底と逆基底に分け、逆数と似た表記法を用いることで計量的イメージを直観的に表せる。
その結果、反変と共変に関する形式的な整理を与える。

逆基底表記 EditToHeaderToFooter

基底 EditToHeaderToFooter

凌宮数学では共変基底を正基底$$ \:e_i $$とし、
反変基底を逆基底として正基底の逆数の形$$ \ffd1{\:e_i} $$$$ = $$$$ \:e_i^{-1} $$$$ = $$$$ \:e_i^- $$の形で表す。

反変と共変で良く扱われる定数倍の座標変換に関して、
正基底$$ \:e_i $$$$ k $$倍の$$ \:u_i $$$$ = $$$$ k $$$$ \:e_i $$に変わる場合、
逆基底は$$ \ffd1{\:u_i} $$$$ = $$$$ \ffd1{k\:e_i} $$$$ = $$$$ \ffd1k $$$$ \ffd1{\:e_i} $$と、$$ \ffd1{\:e_i} $$$$ \ffd1k $$倍に変わることが形式的に分かる。

双対基底間の内積は、$$ k $$倍と$$ \ffd1k $$倍が打ち消して座標変換に関して不変であるのも形式的に分かる。

$$ \:u_i $$$$ \sx $$$$ \:u^i $$$$ = $$$$ \:u_i $$$$ \sx $$$$ \ffd1{\:u_i} $$$$ = $$$$ (k\:e_i) $$$$ \sx $$$$ \ffd1{k\:e_i} $$$$ = $$$$ \:e_i $$$$ \sx $$$$ \ffd1{\:e_i} $$$$ ( $$$$ = $$$$ 1 $$$$ ) $$

成分 EditToHeaderToFooter

一般に、任意のベクトル$$ \:A $$に対し、その$$ \:e_i $$成分はベクトルと逆基底ベクトルの内積で与えられる。

$$ A^i $$$$ = $$$$ \:A $$$$ \sx $$$$ \ffd1{\:e_i} $$$$ =: $$$$ \ffd{\:A}{\:e_i} $$

$$ \:A $$$$ = $$$$ \sum $$$$ A^i $$$$ \:e_i $$$$ = $$$$ \sum $$$$ \ffd{\:A}{\:e_i} $$$$ \:e_i $$

正基底$$ \:e_i $$$$ k $$倍に変わる場合、
正基底の成分は逆基底の付き方から$$ \ffd1k $$倍に変わることが直ちに分かる。

$$ \ffd{\:A}{\:u_i} $$$$ = $$$$ \:A $$$$ \sx $$$$ \ffd1{k\:e_i} $$$$ = $$$$ \ffd1k $$$$ \ffd{\:A}{\:e_i} $$

他方、逆基底の成分は正基底で割算するため、$$ \ffd1{1/k} $$$$ = $$$$ k $$倍に変わるのは容易に予想できる。

$$ \ffd{\:A}{\:u_i^{-1}} $$$$ = $$$$ \:A $$$$ \sx $$$$ \:u_i $$$$ = $$$$ \:A $$$$ \sx $$$$ (k\:e_i) $$$$ = $$$$ k $$$$ \ffd{\:A}{\:e_i^{-1}} $$

内積 EditToHeaderToFooter

一般に、任意のベクトル$$ \:A $$$$ \:B $$は一対の反変と共変表記により成分同士の積和形で表せる。

$$ \:A $$$$ \sx $$$$ \:B $$

$$ = $$$$ \Big( $$$$ \sum A^i $$$$ \:e_i $$$$ \Big) $$$$ \sx $$$$ \Big( $$$$ \sum B^j $$$$ \:e_j $$$$ \Big) $$
$$ = $$$$ \Big( $$$$ \sum A^i $$$$ \:e_i $$$$ \Big) $$$$ \sx $$$$ \Big( $$$$ \sum B_j $$$$ \:e^j $$$$ \Big) $$$$ = $$$$ \sum $$$$ A^i $$$$ B_i $$
$$ = $$$$ \Big( $$$$ \sum A_i $$$$ \:e^i $$$$ \Big) $$$$ \sx $$$$ \Big( $$$$ \sum B^j $$$$ \:e_j $$$$ \Big) $$$$ = $$$$ \sum $$$$ A_i $$$$ B^i $$
$$ = $$$$ \Big( $$$$ \sum A_i $$$$ \:e^i $$$$ \Big) $$$$ \sx $$$$ \Big( $$$$ \sum B_j $$$$ \:e^j $$$$ \Big) $$


各ベクトルの表記は共変でも反変でも良く、
基底が$$ 0 $$または$$ 1 $$に消える保証があるのは
$$ \:e_i $$$$ \:e^i $$が組み合わさるとき限り。

$$ = $$$$ \sum $$$$ \ffd{\:A}{\:e_i} $$$$ \ffd{\:B}{\:e^i} $$
$$ = $$$$ \sum $$$$ \ffd{\:A}{\:e^i} $$$$ \ffd{\:B}{\:e_i} $$

正基底を$$ k $$倍したところで、逆基底が$$ \frac1k $$倍になり、全体では変わらないのが分かる。

歴史的に、ベクトルを成分のみで表す習慣が根強い。
そのため、反変成分で表記されるベクトルを反変ベクトル、
他方では、共変成分で表記されるベクトルを共変ベクトルと呼ばれる。

同一のベクトルでも表記次第で反変ベクトルにも共変ベクトルにもなるため、
反変ベクトルと共変ベクトルの区別はベクトル自体の性質ではない
しかし、名前からベクトルの種類と勘違いされ易く、学者*2には注意が必要である*3

特に内積においては、反変成分と共変成分の組合せで基底を書かずに済むため、
片方のベクトルを反変成分で、他方を共変成分で表す表記法が多用される。
その結果、物理学ではベクトル量毎に表記法が決められる場合もある*4

*2 ビギナーは「まなぶもの」と読み、ベテランは「ガクシャ」と読もう。この区別は本質ではない。
*3 名実に反変表記と共変表記か、見たまんま反変成分と共変成分で呼び分けて欲しい。
*4 http://eman-physics.net/relativity/variant.html 最後の「訂正すべきこと」の節まで読むべし。

勾配 EditToHeaderToFooter

習慣的に、ベクトル幾何では長さの基底を正基底とする。
位置ベクトルや微小変位ベクトルでは共変基底が多用される。
例:

 $$ \:r $$$$ = $$$$ \sum $$ $$ r^i $$$$ \:e_i $$$$ = $$ $$ x $$$$ \:e_x $$$$ + $$ $$ y $$$$ \:e_y $$$$ + $$ $$ z $$$$ \:e_z $$

$$ d\:r $$$$ = $$$$ \sum $$$$ dr^i $$$$ \:e_i $$$$ = $$$$ dx $$$$ \:e_x $$$$ + $$$$ dy $$$$ \:e_y $$$$ + $$$$ dz $$$$ \:e_z $$

関連して、任意のスカラー場*5$$ f $$の全微分に関し、
$$ f $$の勾配ベクトル$$ \:g $$$$ = $$$$ \:\nabla f $$と微小変位$$ d\:r $$が内積関係にある:$$ df $$$$ = $$$$ \:\nabla f $$$$ \sx $$$$ d\:r $$
そのため、$$ d\:r $$を共変基底と反変成分で表す場合、勾配は反変基底と共変成分で表される。
その習慣のため、勾配が共変ベクトルの代表例に選ばれ易い。

$$ df $$$$ = $$$$ \:\nabla f $$$$ = $$$$ \ppd{f}{x} $$$$ dx $$$$ + $$$$ \ppd{f}{y} $$$$ dy $$$$ + $$$$ \ppd{f}{z} $$$$ dz $$

  $$ = $$$$ \sum $$$$ (\:\nabla f)_i $$$$ dr^i $$$$ = $$$$ \Big( $$$$ \sum $$$$ \ppd{f}{r^i} $$$$ \:e^i $$$$ \Big) $$$$ \sx $$$$ \Big( $$$$ \sum $$$$ dr^j $$$$ \:e_j $$$$ \Big) $$

  $$ = $$$$ \sum $$ $$ g_i $$ $$ dr^i $$$$ = $$$$ \Big( $$$$ \sum $$ $$ g_i $$$$ \:e^i $$$$ \Big) $$$$ \sx $$$$ \Big( $$$$ \sum $$$$ dr^j $$$$ \:e_j $$$$ \Big) $$

逆基底表記を使うと次のように書ける:

$$ df $$$$ = $$$$ \ddd{f}{\:r} $$$$ = $$$$ \ddd{f}{x} $$$$ dx $$$$ + $$$$ \ddd{f}{y} $$$$ dy $$$$ + $$$$ \ddd{f}{z} $$$$ dz $$

  $$ = $$$$ \sum $$$$ \ddd{f}{r^i} $$$$ dr^i $$$$ = $$$$ \Big( $$$$ \sum $$$$ \ddd{f}{r^i} $$$$ \:e^i $$$$ \Big) $$$$ \sx $$$$ \Big( $$$$ \sum $$$$ dr^j $$$$ \:e_j $$$$ \Big) $$

簡単な例として、1次元における関数$$ f $$$$ = $$$$ a $$$$ x $$の勾配を考えると、
$$ \ppd{f}{x} $$$$ = $$$$ a $$が勾配の共変成分に該当するのが分かる。

$$ df $$$$ = $$$$ \:\nabla f $$$$ d\:r $$$$ = $$$$ \ppd{f}{x} $$$$ dx $$$$ = $$$$ a $$$$ dx $$$$ = $$$$ ( $$$$ a $$$$ \:e^x $$$$ ) $$$$ \sx $$$$ ( $$$$ dx $$$$ \:e_x $$$$ ) $$

正基底を$$ k $$倍にして、$$ \:e_u $$$$ = $$$$ k $$$$ \:e_x $$なる座標系を考えると、
ベクトルの座標不変性で$$ du $$$$ \:e_u $$$$ = $$$$ dx $$$$ \:e_x $$が成立し、$$ dx $$$$ du $$$$ = $$$$ \ffd{\:e_x}{\:e_u} $$$$ dx $$$$ = $$$$ \ffd1k $$$$ dx $$になる。

$$ u $$$$ = $$$$ \ffd1k $$$$ x $$$$ f $$に代入すると、$$ f $$$$ = $$$$ ka $$$$ u $$が得られて、$$ \ppd{f}{u} $$が求まる。

$$ df $$$$ = $$$$ \:\nabla f $$$$ d\:r $$$$ = $$$$ \ppd{f}{u} $$$$ du $$$$ = $$$$ ka $$$$ du $$

$$ = $$$$ ( $$$$ ka $$$$ \:e^u $$$$ ) $$$$ \sx $$$$ ( $$$$ du $$$$ \:e_u $$$$ ) $$

$$ = $$$$ ( $$$$ ka $$$$ \ffd{e^x}{k} $$$$ ) $$$$ \sx $$$$ ( $$$$ \ffd{dx}{k} $$$$ k\:e_x $$$$ ) $$

$$ = $$$$ ( $$$$ ka $$$$ \ffd{1}{ke_x} $$$$ ) $$$$ \sx $$$$ ( $$$$ \ffd{dx}{k} $$$$ k\:e_x $$$$ ) $$

*5 位置ベクトルを独立変数とするスカラ値の関数

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